Interview

GLIKでの学びを仕事に活かす

2014年にGLIKプログラムに参加した株式会社TKCの角幸介氏。現在は、海外ビジネスモニター営業責任者として、海外子会社の財務情報を見える化するクラウドサービス「海外ビジネスモニター(OBMonitor)」の普及に尽力している。2016年のインタビューでは、3カ月半のプログラム中、英語の壁、参加者同士のバックグラウンドの違いに苦しみながらも、さまざまな議論を繰り返すことで価値観の軸が増え、多角的、かつ高い視座で物事を捉えられるようになったと語っていた。インタビューから5年以上が経過した今も、年に数回は当時の資料を読み返し、海外の仲間ともオンラインで対話を続けている角氏に、プログラムで学んだことをどのように仕事に活かしてきたかについて伺った。

とことん考え、信念を確立する

―グローバル経営の見える化を支援する「OBMonitor」は現在、世界37カ国、累計1100社を超える企業に採用されていると伺っています。今後さらに飛躍させるための大きな戦略の1つとして「金融機関との提携」を進めているとのことですが、そのきっかけはどのようなものだったのでしょうか?
角:
事の始まりは当社メインバンクさんからのご提案だったのですが、恥ずかしながら当時は、金融機関が推進するビジネスマッチングというスキームのこともよくわかっていませんでした。
ただ、海外進出している日本企業へ「OBMonitor」が今以上に普及するなら、業績報告の遅延、会計処理のミスを防ぐだけでなく、スピーディに、かつ正確に業績を把握することが可能になり、必ずや企業のお役に立てるという思いは持っていました。
そもそも当社の商品・サービスはすべて、社是「自利トハ利他ヲイフ」に基づいたものであり、メインバンクさんと一緒に普及できれば、「お客様の事業の成功条件を探求し、これを強化するシステムを開発し、その導入支援に全力を尽くします」という経営理念にも適うに違いないと思ったのです。

―金融機関とのビジネスマッチングというのは、御社の歴史の中でも初めての試みだったとのことですが、前例のないことにチャレンジする際、GLIKで学んだことは役に立ちましたか?

角:
日本で初めて量産車用のエアバックを開発した小林三郎さんから教わった「コンセプトクリエーション」に関する考え方はとても参考になりました。小林さんは、本田宗一郎氏の薫陶を受けた方で、周囲が反対する中、16年にわたってエアバックの研究を続けたそうです。どうしてそんなことができたかといえば、『お客様の安全のためには絶対に必要だ』という信念があったからだと私は理解しています。
ですから、私もその信念を確立するため、本当に金融機関さんとの協業が必要なのか、それによって多くの企業のお役に立てるのかをとことん考えました。業務時間内はもちろん、満員電車に乗っているとき、風呂に入っているときとか、スキマ時間さえあれば、何度も何度も思考を巡らせただけでなく、自分だけでは堂々巡りになってしまうので、いろいろな方から意見をお聞きしたりもしました。社内で議論する段階では、ネガティブな意見に遭遇することもありましたが、GLIKで受けた異文化の衝撃に比べれば大したことはないと、冷静に素直に受け入れることができましたね。
そして、その結果、「金融機関」「導入企業」そして「当社」の誰にとってもデメリットのない、三方よしのスキームであるという確信、信念にたどり着いてからは、一切ぶれることなく、会社に提案できるようになったのです。

組織の垣根を越えて「同志」となる

―協業スキームが進行する過程では、さまざまなステークホルダーのベクトルを合わせるなど、ビジネスマッチング特有の難しさがあったのではないでしょうか? GLIKプログラムではリーダーシップが1つの大きなテーマとなっていますが、プロジェクトを推進するにあたって意識されていることがあれば教えてください。
角:
三方よしのビジネスモデルとはいえ、関係者全員が同じ組織に所属しているわけではないので、相手にとってのメリットは何かを考えてアプローチするだけでなく、日本企業、日本経済全体にとって必要な活動であるという「熱量」の共有は常に意識しています。GLIKプログラム原案者の野中郁次郎先生が提唱されている「共通善」という考え方で関係者全員がつながることができれば、組織の垣根を越えて同志になれると考えているからです。その意味では、金融機関さんにしても、導入企業の担当の方にしても、上司部下関係にあるわけではありませんから、リーダーシップを発揮するというよりは、日本企業の海外展開支援という目的を共有する「同志づくり」に奔走しきた2年間だったと言えるかもしれません。
GLIKでタイ・シンガポールの国家プロジェクトについて学んだ際にも感じたことですが、リーダーが一人でがんばったとしても、一人でできることは限られています。周囲を巻き込んで、同じ熱量をもって熱狂できるようなチームを作らなければ大きなことは成し遂げられないと思うのです。
その点、今回のプロジェクトでは、金融機関さんをはじめとして、本当にすばらしい方々に恵まれ、共通善に向かって一歩ずつ前進できていると感じています。もちろん、まだまだ当初掲げた目標の水準には達していませんから、ここからさらにもう一段ギアを上げて加速していきたいと考えているところです。

―今でもGLIKの資料を読み返したり、当時の仲間とコミュニケーションを続けられたりと、プログラム終了後も精力的に活動されている角さんから見て、GLIKの魅力はどこにあると思われますか? これから参加する方に向けてメッセージをいただければと思います。
角:
もともと私は、当時の上司(現社長)からプログラムに参加するように言われた際、「英語も苦手なので行きたくない」と一度は断った人間なのですが、今感じているのは、参加することで失うものは一つもなかったということです。当時も、日本が誇る経営学者である野中先生の理論のエッセンスに触れることができるのではないか、自分のキャリアを見直すきっかけになるのではないかという期待感だけで参加したところがありましたが、それは間違っていなかったと今でも思っています。
もちろん、英語で講義を受けて、英語でディスカッションするのは大変でしたし、何よりも「日本人ならこう考える」という常識がまったく通用しない海外からの参加者との対話は衝撃の連続でした。さらには、授業を受けるにあたって膨大な量の予習が必要だったので、午前3時くらいまで勉強して気を失って、気がついたら朝だったみたいなことも頻繁にありました。
ただそれでも、今日お話ししているような仕事への向き合い方、とことん考える姿勢、多様性への理解といったことを学べただけでなく、今でも連絡を取り合える仲間に出会うことができたのは、私のキャリアにとってプラスでしかなかったと思っています。

2015年Interview

革新の現場でつかんだ思いとは

(当時)株式会社 TKC 営業本部 海外展開支援室 室長

衝撃を受け、悩んだ3カ月半

―GLIKでは全期間を通して、自分が属するコミュニティの課題に対しイノベーションモデルを創造する「Capstone Project」があります。角さんはこれで随分悩んでいたと思いますが、いかがですか。

角:
はい。もう本当に苦しみました。私自身が初めて会社でチームリーダーとなり悩んでいたことから「自社のリーダー育成」というテーマにしたのですが、遠山先生(GLIKプログラムディレクター)やアドバイザーに徹底的に鍛えられましたね。「リーダーとは?」「リーダーシップとは?」「そもそもリーダーは必要?」と。そこまで本質を追求していなかったというのが正直なところでした。

―海外からの参加者にも激しく問い詰められましたね。

角:
そうですね。あの時は英語でうまく答えられず、その後、クラスメイトに言われました。「あなたが意見を言ってくれないと我々のためにならない。新たな視点は、他の意見によって学べるのだから」と。英語力の問題ではなく、自分の考えを伝えることが貢献であり、重要なのだと気づきました。その後は、クラスメイトとリーダーシップについて議論し続けました。

イノベーションの現場体験で思いとテーマが繋がった

―悩んでいたテーマでいよいよ本質に迫った時がありましたね。

角:
大きなきっかけはタイとシンガポールで国家規模のプロジェクトを訪問したことです。プロジェクトのメンバーとのディスカッションを通じ、リーダーではなく実は彼らがキーパーソンなんじゃないかと。リーダーがいくら頑張っても、周りのメンバーが理解し実行しないと何も生まれないことを強く感じ、ふと当社に置き替えたらどうだろうと思ったのが、大きな変化の第一歩でした。そこから「ミドルマネージャー」に焦点を当てることにしたのです。現場体験がなければ思いつかなかったと今でも思います。

―そこからアクションプランまで頑張り、素晴らしいファイナルプレゼンテーションでした。その後、自分の中で何が変わったと感じますか。

角:
よく「価値観が変わった」と言いますが、私は「価値観の軸が増えた」という印象です。確固たる軸がありながら、グローバルな観点から見たらどうか、この物事における「社会的な善」とは何なのか。より多角的に物事を捉え、より高い視点で考えるようになった。それが仕事で活かされていると感じます。GLIKでは、とにかく想像以上に得るものがあったので、忘れるのが怖いんです。今でも講義で使ったレジュメなどを見直して、講師陣の言葉を何度も思い出しています。

“卒業”とは思わない。コミュニティとしての可能性

―角さん自身がミドルマネージャーということもあるので、ぜひGLIKで学んだ能力で会社を前進させていってほしいですね。卒業生とも刺激しあってほしいと思います。

角:
実は卒業生と言われてもピンとこないのです。JAIMSはスタッフと参加者という関係ではなくて、これからもずっと社会的影響力を持っていけるコミュニティという感じなので。ここからイノベーションが生まれたら面白いなと思います。そのために次期の参加者もサポートしていきたいですね。自分にとってすごくいい時間だったので、それを最大限に活かしてほしいという思いもあります。

―修了後も富士通JAIMSのサポートは続きますが、こうして参加者から積極的に関与して繋がることは本当に嬉しいですね。このコミュニティを一緒に広げて、イノベーションの実現へ結び付けていけたらと強く思います。今日はありがとうございました。

井口所長からのメッセージ

インタビューを終えた井口所長から、最後に次世代リーダーへの期待をこめたメッセージが語られた。

井口久美子(富士通JAIMS所長)

「日本人は、いま自分がいるコミュニティの課題の深掘りができていない人が多いと感じます。そのために海外からの参加者と最初はうまく本質的な議論ができない。問題は英語力ではなく、思いに根ざした意見がない、発信できないということなのです。富士通JAIMSはグローバルでオープンなハブなので、いろいろな人と繋がることができます。国を超えて考えるべき課題がたくさんある今、その本質を捉え、皆で解決していく。そんなコミュニティに発展させていきたいと考えています。ぜひ一緒に学んでいきましょう」

※本体験談は「月刊事業構想オンライン」に掲載されたものより作成しています。

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