Interview

―GLIKに応募される前、GLIKプログラムについて、どのような印象をお持ちでしたか?
入社後2年目の2007年頃には、すでにプログラムの存在は知っており、いつか参加してみたい憧れのプログラムでした。まずはエンジニアとしてグローバルな視点を身につけたいと考えていた当時の私は、ネットワークエンジニアの世界的な資格であるシスコシステムズのエキスパート試験に挑戦しました。高度な知識が求められるのはもちろんのこと、試験も全て英語で実施されるので、入社後2年目の私にとっては大変難しい試験ではありましたが、この挑戦はその後のエンジニアとしてのキャリアの大きな礎になりました。また、エンジニアという枠にとらわれず、より広い視点をもって、新規ビジネスの創出といった仕事を手がけたいという気持ちが芽生えたのもこのときでした。
その後約7年間エンジニアとしての経験を積み、官公庁関連のプロジェクトでチームマネジメントを任されるようになったころ、当社の派遣留学制度に手を挙げ、ついにGLIKに参加できることになりました。エキスパート試験で一通り英語の勉強をしたとはいえ、今度は海外の大学で学んだ参加者らとともに、論文を読んでディスカッションをしたり、協力してプレゼンテーションをしたりといった内容が中心のプログラムです。技術的な知識ではなく、ビジネスに関する知識も要求されます。語学力が足りないと何も始まらないので、外国語を流暢に話せるために必要とされる学習時間2,200時間の達成を目標に準備を開始しました。義務教育を含めて過去に英語を学習した時間を差し引くと、私にはあと700時間の学習が必要だったので、開始までの半年間、1日4時間、会話中心のレッスンを受けたり、英語の論文を読んだりして、なんとか目標の勉強時間をクリアしました。仕事では大きなプロジェクトのリーダーを任されていた時期でしたので、睡眠時間や食事の時間を削っての学習でしたが、辛さよりもGLIKに参加できるというワクワク感のほうが勝っていました。

―参加されてもっとも驚いたこと、刺激的なことは何でしたか?

他国の参加者のスピード感には衝撃を受けました。これは私を含めた日本人参加者のみなさんが感じられたことだと思います。日本では、まず段取りを決めたうえで、順序立てて進行するというように、合意形成にある程度時間をかけるのが一般的です。ただ、彼らはそうではなかった。その場の共通言語である英語を使ったコミュニケーション力、課題設定力、チームビルディング力を駆使して、スピーディに進行していくのです。
このままでは場の雰囲気に呑まれてしまうと考えた私は、講義やグループワークでは誰よりも先に発言するようにしました。日本人はついつい周りの様子を窺って、意見が出揃ってから発言するというパターンを選択しがちですが、無理矢理にでも行動変容を起こしてマインドブロックを打ち消そうとしたのです。もちろん最初はうまくいかないことも多々ありました。手を挙げたはいいけれど、何を質問してよいのかまとまっていないために黙ってしまったり、支離滅裂な発言をしたりすることもありました。ただ、結果的にこの姿勢は奏功し、徐々にうまく質問や発言ができるようになっていきました。また、積極的に学ぶ姿勢を持つことで、授業を経るごとに知識も格段に増えていきました。意識的に能動的な行動をすることで自分自身を刺激し、自らの能力を最大限に引き出すことができることに気づきました。これはプログラムが終わった後も常に大切にしていることです。

―GLIKプログラムの目的の1つに「リーダー育成」がありますが、参加を通して、リーダー観に変化はありましたか?

プログラム全体を通して、多様なメンバーを率いて大きな結果を残すために必要となるリーダーシップとは何なのか、それを見つけて学びたいと考えていました。グループワークを重ねていくうちに、私にとって今伸ばすべき力は、カリスマ的にチームを引っ張るリーダーシップではなく、メンバーの意見を理解したうえで信頼関係を築き、それぞれが最大限のパフォーマンスを発揮できる環境を作ることではないかと考え始めました。GLIKには文化や価値観、母語の異なるメンバーが参加しており、特にプログラム初期は誤解やコミュニケーション不足が生まれやすい環境です。それでも、プログラムが進むにつれて、互いの信頼関係が深まり、安心してコミュニケーションできるようになると、チームのパフォーマンスはぐっと上がりました。私も、小さなことではありますが、誤解が生じそうな場面では日本語と英語の両方でメンバーに状況を説明するなど、メンバー同士が信頼関係を築けるように意識して行動していました。
スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツが持っているような、組織のビジョンを示し、メンバーを強力に導くカリスマ的なリーダーシップは大変重要だと思います。GLIKで学んだのは、これに加えて、メンバーと信頼関係を築き、それぞれが自律的に動ける環境を作ることもまた重要なリーダーシップであるということです。実際に、コロナ渦によりテレワークが普及したことで、リーダーが1から10までメンバーに指示したり、行動を監視したりといったマイクロマネジメントが通用しないケースが増えてきているように感じます。なにより、人は何かにチャレンジするときに、やらされ感があると本来のパフォーマンスを発揮できません。今後の世界でより重要性を増していく「創造性を求められる仕事」においては、それはより顕著だと思います。メンバーが主体的に動ける環境を作り、組織として最大限の創造性を発揮することが、これからのリーダーに求められる重要な要素ではないでしょうか。
GLIKに参加した後、エンジニアとしてお客様のシステムを構築する部門から、「イノベーション&フューチャーセンター」という組織に異動した私は現在、マネージャーとして新規ビジネスの創出を担当しています。最近では、欧州の企業や大学と共同で政府に提案するプロジェクトのリーダーを務めましたが、GLIKの経験が大いに活きました。この組織のミッションは、社内外の様々な人々と関係性を構築しながら、新しいビジネスを創り出すことです。ゼロからビジネスを生み出すことは容易ではありませんが、GLIKで学んだ新しいリーダー像を体現すべく、メンバーと力を合わせながら日々奮闘しています。

―プログラム全体を通して得たもの、あるいは思い出深い出来事はありましたか?

さきほど、他国の参加者のスピード感に圧倒されたと述べましたが、実は日本人にはよいところがたくさんあるということも、プログラム中に感じていました。
それを気づかせてくれたのが、当初、マシンガントークを展開していた海外からのある参加者でした。いつも日本人と一緒に行動するような親日家の彼は、ある日を境に急にゆっくり話すようになったのです。不思議に思った私が、「なぜ、ゆっくり話すようになったのか」と聞いたら、「日本人が私の言うことをあまり理解していないことに気づいた。相手に伝わらないのは、伝えるほうが100%悪い。だから、伝わるようにゆっくり話しているのだ」と言うのです。その日を境にメンバー間の相互理解が深まり、プログラムが終わる頃には、他国の参加者もみな「日本人は消極的で自分からは話さないけれど、よくよく聞いてみると、スマートな意見を持っている」と口々に言っていました。私は最初に行動を変えて相互理解のきっかけを作ってくれた彼の態度に大変感銘を受けたとともに、海外の参加者の視点を通じて日本人のよいところに気づくことができました。
グローバル・ビジネスという意味では、米中の巨人に圧倒されて、萎縮し、諦めているようにも見える日本人ですが、彼らが気づいてくれたように、日本人のよさを諦めずに発揮し続けられるなら、ビジネスの分野でもまだまだ世界で戦えるのではないかと感じています。

―今後、参加する方へのメッセージ、アドバイスをお願いいたします。

同期としてGLIKに参加した人は様々なバックグラウンドを持っていましたが、参加経緯や動機は違えど、最終的には全員が「参加してよかった!」と言っていたことは、まずお伝えしたいです。参加者全員が、知識創造理論をはじめとした幅広い知識を深め、英語力を大きく伸ばしたと断言できます。これらの知識や英語力を得られるだけでも相当に価値のあることなのですが、GLIKで得られる一番大きなものは、多様な価値観にふれることによってもたらされる広い視野だと思います。
どんなにグローバルな視点で物事を捉えようと思っていても、日本の同じ組織にとどまっている限りは、どうしても視野が狭くなりがちです。ですから、言語、文化、価値観のすべてが異なる環境を半ば強制的に経験できるGLIKのようなプログラムには大きな意義があると感じています。
普段と違った環境に身を投じるわけですから、失敗することもたくさんありますが、その分多くの気づきを得られるのです。普段のビジネスではなかなか失敗できないからこそ、GLIKでは大いに失敗して大いに学び、人生を変えるような経験をしていただきたいです。

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