第4回 Knowledge Cafe 開催レポート

ナレッジリーダーに贈る富士通JAIMS主催セミナー
Knowledge Cafe
「持続可能な社会的価値を創造する」

-21世紀の日本的経営を創り出すー

講師:野中 郁次郎 氏

一橋大学名誉教授、日本学士院会員
2017年「Lifetime Achievement Award(生涯功労賞)」(カリフォルニア大学バークレー校ハースビジネススクール)を史上5人目、学者として初めて受賞。
 

第4回Knowledge Cafe 開催レポート
「持続可能な社会的価値を創造する」
~21世紀の日本的経営を創り出す~

2017年7月に設立5周年を迎えた富士通JAIMS。第4回 Knowledge Cafeは、これを記念する特別セミナーとして12月12日に開催された。「持続可能な社会的価値を創造する ~21世紀の日本的経営を創り出す~」と題されたプログラムには定員70名をはるかに超える申し込みがあり、当日は満席に。会場は高まる期待と熱気に包まれ、熱い知の交流が幕を開けた。

富士通JAIMS設立5周年。母体JAIMS創立時の意志を継ぎ、さらに学び合う未来へ

開会の挨拶として、富士通JAIMS理事・所長(2017年12月時点)の井口久美子より、5周年を迎えたことへの感謝とこれまでの歩みが述べられた。1972年にハワイで創立されたJAIMSは、2012年にアジアとの連携を強化し、より善い価値を創造するために再構築。日本にて「一般財団法人富士通JAIMS」が設立された。井口は「ここまで続けてこられたのも、皆様のご支援はもちろん、創立時のリーダーが自らの意志を貫き、夢を創っていったことにある。私共はその意志を受け継ぎ、皆様が学び、つながっていく場を提供していきたい。皆様の夢をかたちにするお手伝いをしていきたい」と、改めて富士通JAIMSのミッションを語った。

続いて、盛大な拍手に迎えられながら、知識創造理論の世界的権威である野中郁次郎氏(一橋大学名誉教授)が檀上へ。「日本的経営の進化に挑戦せよ」と題し、日本企業の経営のあり方について先進の知見が共有される、設立5周年の記念講演が始まった。

野中郁次郎氏が語る「知的機動力」、日本的経営の進化とは

あらゆる組織において持続力と創造力を向上させ、賢慮のリーダーを育成する「知識創造経営」を研究の核としている野中氏。2017年11月には母校のカリフォルニア大学バークレー校ハースビジネススクールから「Lifetime Achievement Award(生涯功労賞)」を史上5人目、学者としては初めて受賞している。野中氏が受賞について軽くジョークを飛ばすと会場全体で笑い声が起こり、真剣な中にも和やかな雰囲気が広がった。

初めに、野中氏が考えるイノベーションの定義が述べられた。
「ドラッカーが語ったのは、知識が最大の重要な資源であり、それを富の創造過程の中心に据える理論がほしいということ。それこそがイノベーションを説明するものです」
そのために重要となるのが「直接経験」と、野中氏は続ける。
例えば有名なマッハの絵にあるように、長椅子に寝そべり、開いた窓の向こうに広がる庭園を眺めたときに感じる光、風、花の香り。重要なことはどう感じたかという主観であり、「物に反射した光が目に入り、電気的信号が脳に伝わった」という客観的事実ではないという。
「そういったサイエンス的なことは、いったんカッコに入れようと。生き生きとした現実は、自分にとってどう見えているか。その主観を過去の歴史、現在、未来の予測まで総動員してコンセプトにする。まさにアナログとデジタルを両方回すということです」

このようなダイナミックなプロセスを起こすためにはどうしたらよいのか。かつて本田宗一郎がテストコースの現場で、暗黙知を形式知に生かした例を挙げ、解説が進められていく。
「目で見て、音を聞き、鼻で嗅ぎ、振動を感じ、五感すべてを駆使して仮説を立て、スペックに落とす。これはまさに知のアジリティ。知的機動力のリーダーシップの本質なわけです」

そして話題は、野中氏が提唱する知識創造のプロセス「SECIモデル」へと展開。まずは直観・共感、そこから本質をえぐり出してコンセプト化し、次にモデル化、徹底的に実践し、知を血肉化するSECIモデルは、組織にイノベーションをもたらす。これを組織的にスピーディに進めるために野中氏が新しく提示した概念が「知的機動力」である。その基盤として、3つのポイントが示された。

1つは「共通善:存在価値」。共通の「善い」目的を創るということである。
「何がGood Life(善き生)か。その意味、価値は我々が主体的に創り出さねばならない。数人の天才ではなく全員で草の根でやるというのが、まさにGood Lifeです。本来のCapitalismはそういうことを目指して来たのではないか」

2つ目は「相互主観性」。主観を客観的なものにするためには、主観と主観を徹底的にぶつけ合い、そこから生まれる共感を媒介とする必要がある。ホンダのワイガヤ、京セラのコンパ経営の取り組みを挙げ、「形式的でなく、全身全霊でぶつかり合った上で到達するのが相互主観性、共感の本質」と、徹底的な議論の重要性を熱弁する野中氏。

3つ目の「自律分散系」については、官僚制を鉛の兵隊に、フラクタル組織をマトリョーシカに例えて解説。
「官僚制は一見ガチガチに強く見えても、実はもろい。個人が全体を表現できていない。フラクタルは、個人になっても全体像がそこに残る。基本的には、自律分散系のチームというのが経営の核になってきます」

SECIスパイラルを駆動するためのリーダーシップを実践している企業として大手医薬品メーカーやIT企業の取り組みも紹介。知的機動力がもたらす新たな企業経営の姿がより具体的に示された。
最後に野中氏が重ねて強調したのは、二者両立の経営。二項対立ではなく、お互いの個を貫きながらも全体の調和を追求する二項動態が重要であると説く。
「一言で言えば、『知的体育会系』になろうじゃないかと。まさにこういうことが今の組織に求められているのではないかというのが私の結論です」
野中氏が笑顔で締めくくると、熱心に聞き入っていた参加者から割れんばかりの熱く長い拍手が送られた。

特別講演後は、レセプションで参加者同士が知と思いを共有

この後は、特別講演として株式会社マザーハウス代表取締役兼チーフデザイナーの山口絵理子氏が登壇。「途上国から世界に通用するブランドをつくる~自分を信じて歩き続ければ、絶対に光は見えてくる~」と題し、新たなビジネスモデルの創造に挑戦し続けるマネジメント哲学と実現プロセスについて語られた。

講演後には同ビル内のレストランにて、美しい夜景を臨みながらのレセプションを開催。ビュッフェスタイルの会場で、ワイングラスを片手に知的交流を深める華やかなひとときとなった。参加者からは「感動した。挑戦への意欲が高まった」「参加者の志の高さにも刺激を受けた」などの喜びの声が聞かれ、充実の特別セミナーが幕を下ろした。

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