第1回 Knowledge Cafe 開催レポート

「創造性を醸成するHondaの企業風土」

各界の専門家と第一線で活躍するビジネスパーソンとがナレッジを共有する。このようなコンセプトのもと、JAIMSが主催する第1回 Knowledge Cafe(ナレッジ・カフェ)が、2008年4月22日、東京千代田区の如水会館で開催された。その模様をレポートする。

近視眼的な要求が イノベーションを阻害する

日本では第1回目となるKnowledge Cafeは、JAIMS所長の野中郁次郎(一橋大学名誉教授)がファシリテーターを務め、元株式会社本田技術研究所主席研究員で世界標準のエアバッグ開発者である小林三郎氏(一橋大学大学院国際企業戦略研究科客員教授)を招いて実施された。

会場には経営者や人材育成担当者を中心に約100名のナレッジリーダーが集い、まずJAIMS COO兼エクゼクティブバイスプレジデントのブレア・オド氏、野中郁次郎の開会の挨拶が行われた。その後、小林氏による基調講演「創造性を醸成する Hondaの企業風土 ~世界標準エアバッグ開発者による現場からみたホンダイズム~」へと移った。

小林氏はまず「イノベーションをどのようにマネジメントするか」というテーマから軽妙洒脱に語り始め、MBAに代表されるオペレーション(執行)を成功させるための手法では、イノベーション(革新)をマネジメントできないことを力強く訴えた。

「オペレーションの成功率が95~98%なのに対し、イノベーションの成功率は10%に満たない。マネジメントの手法も自ずと異なる。イノベーションに欠かせないのは、論理・手法ではなく熱意と想いだ。ビジネスの成立性・収益性、競争相手の企業の動向、データ収集による実現可能性といった近視眼的なマネジメントサイドの要求が、イノベーションを阻害する」と力説した。そしてオペレーションの手法でイノベーションをマネジメントしようとした結果、「創業時にはイノベーティブだった企業が徐々にオペレーティブとなり、官僚的な組織に変わり、長期的には衰退していく」と警鐘を鳴らした。

イノベーションを生み出す 「ホンダウェイ」とは?

次に小林氏は、本田技術研究所において、今日では世界標準となっているトップダッシュ式のエアバッグを開発した経験を踏まえ、世界有数のイノベーティブ企業であるホンダのイノベーション・マネージメントの要諦を披露した。

小林氏は「哲学なき行動(技術)は凶器であり、行動(技術)なき理念は無価値である」という創業者の本田宗一郎氏の言葉を引用したうえで、イノベーションを生み出す土壌となるホンダの企業文化(=ホンダウェイ)について説明。

個人・個性の尊重、文鎮(平等)型組織、異端を認めるミニマムルール、学歴無用の考えが「①高い自由度」をもたらしていること。前向き・元気な社風の下、ワイガヤ(年齢や肩書きに関わらず独創的・本質的な議論を長時間かけて行うホンダのミーティング手法)に代表される「②熱い議論」が社内の至るところで行われていること。世界標準となった助手席エアバッグも、安全分野の世界的権威の意見や、一見すると理にかなっている他社の方式には迎合せず、助手席の子供の安全性を重視し、多大な開発コストを要するにも関わらずトップダッシュ方式の開発を断行。発売後に市場の反応を見た他社がホンダに追従し、結果としてそれが世界標準となったエピソードを紹介。

本質追究、絶対的価値の追究が徹底され、「③本質的な高い志」を掲げていることがホンダの企業文化に根付いていることを、本田宗一郎氏のエピソードや小林氏自らのエアバッグ開発時の裏話を交えながら、リアルに語られた。またこの三つの要素が相まって、知的興奮度が高く、チャレンジ意欲の旺盛なイノベーティブな文化が生み出されていることを小林氏は熱心に説いた。

「熱気と混乱」が 革新の母

基調講演の最後に小林氏は、「10人中9人が賛成するアイデアは、遅きに失している。10人のうち9人が反対するアイデアでなければイノベーションにはつながらない」「若い人が訳のわからないアイデアを真剣に伝えてきたら、きちんと話を聞いてあげなければならない」「ときには無茶な目標を掲げることがイノベーションを生み出す契機になる」と、会場に集ったナレッジリーダーにアドバイス。「『冷静と整然』ではなく『熱気と混乱』が、革新の母。本質的な目標を定めていれば、大失敗はない。ネバー・ギブ・アップの精神が大事」と講演を締めくくった。

基調講演後は、「ホンダのイノベーティブなDNAをどう継承していくか」をテーマに、野中所長による講評が行われた。野中は「何人かの人間が集まれば本田宗一郎以上になる、という仕組みをつくりあげなければならない」という藤沢武夫氏の言葉を例示しながら、ホンダがどのようにイノベーティブなDNAを継承しようとしたのかを解説。DNA継承のための組織の進化に小林氏は貢献したと結論付けた。

なお講演・講評終了後は、レセプションが開催され、ナレッジリーダー同士が親睦を深め、意見を交換する場が設けられた。小林氏、野中所長もレセプションに参加し、リラックスした雰囲気の中、参加者と積極的に意見交換を行っていた。

小林 三郎氏

  • 一橋大学大学院国際企業戦略研究科客員教授
  • 元株式会社本田技術研究所主席研究員

野中 郁次郎

  • JAIMS所長
  • 一橋大学名誉教授
  • カリフォルニア大学ゼロックス名誉ファカルティ・スカラー
  • クレアモント大学ドラッカー・スクール名誉スカラー

第2回レポート

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