第2回 Knowledge Cafe 開催レポート

「多文化共生時代を生き抜くためのイノベーティブなグローバルコミュニティの創造」

JAIMSでは毎回、第一線で活躍する一流のプロを招き、時代が求めるナレッジと知見を、向上心あふれるビジネスパーソンたちに提供するセミナーを開催している。
それがKnowledge Cafe(ナレッジ・カフェ)だ。2011年10月13日、富士通本社・ユーザコミュニティサロンで開催された第2回Knowledge Cafeは、経営者や人材育成担当者、JAIMS卒業生などからなる参加者48名の熱気に包まれた。

アメリカ=多文化共生社会、日本=多文化「非」共生社会?!

目まぐるしく国際社会が変動する中、企業にとってグローバル化は必要不可欠であり、いかに多様性を受容し、競争力に変えていくかが重要課題となっている。

今回、Knowledge Cafeで掲げられたテーマは、「多文化共生時代を生き抜くためのイノベーティブなグローバルコミュニティの創造」。特別講演の講師として招かれたのは、ハワイ研究の第一人者である東京大学准教授・矢口祐人氏。そして、JAIMS所長の野中郁次郎が基調講演を行った。

矢口氏の講演テーマは、「グローバル社会ハワイに学ぶ多様性の活かし方」。ハワイは、19世紀以降、世界で最も多人種・多民族な社会のひとつになった場所であり、矢口氏は、ハワイの多様性が生み出した独特の文化や可能性、問題点を論じることで、現代におけるグローバリゼーションの意義に迫った。

矢口氏はまず、グローバリゼーションを「世界的な情報の交換・流通/ヒトとモノの移動」と定義し、「グローバリゼーションには光と影があり、文化の出会いも衝突も交流も融合も起こる」と主張する。

そして、アメリカと日本を比較した場合、多文化国家のアメリカは、せめぎあいの歴史をへて、ゆっくりと多文化共生へ進んできた国であり、対して日本は、多文化「非」共生社会であると解説する。一般的に海外の人々が日本人に抱くイメージも年上・男性優位、日本語・日本人優先が強く、日本はもっと「多文化的な理解と感性を育む重要性」に気づくべきではないだろうかと問題提起を行った。

ハワイに、多文化共生時代を勝ち抜くヒントがある

続けて矢口氏は、多文化共生社会を代表するアメリカの中でも、ハワイがとりわけ多様性が豊かな州であることを解説する。

ハワイは、先住民をはじめ、白人、中国系、ポルトガル系、日系、コリア系、フィリピン系、ベトナム系、そして太平洋の島々からの移民ときわめて多民族の社会であり、多様な血(人種)の融合が進むことで、多文化の交流が進み、ハワイ独自の文化が育まれている。

そして、そこでは、純粋な自己を守ろうとする「排他主義」と、他者を許容し・理解し交流と融合を推進する「多文化共生」が必ずしも相反せず、共存しているとの見解を示した。例えば、日本のかき氷、盆踊り、灯篭流しがハワイ流のスタイルで定着していることを例にあげ、多文化の融合がさまざまな面で進んでいることを示した。また、一方でハワイ先住民文化の復興も起こっていることを紹介。「グローバル、ローカル、ネイティブ意識が混在し、共存し、対立することで生まれる独特の文化がハワイにはあり、21世紀の世界の文化変容に対応していくための非常に有益な参照モデルになっている」と語る。

矢口氏が強調するのは、グローバル化の先駆的な手本としてのハワイの可能性だ。「ビジネスの未来を考えられる場所がハワイではないだろうか」と、演壇から力強いメッセージを届けてくれた。

実践知を身につけたワイズリーダーを目指せ

JAIMS所長の野中は、グローバル時代のリーダーシップについて基調講演を行った。野中は、「偉大なるリーダーシップ」を特集した『ハーバード・ビジネス・レビュー』(日本版/2011年9月号)誌の表紙を飾るなど、日本を代表する経営学者のひとりとして知られる。演題は「賢慮のリーダー‐イノベーションを持続するグローバルコミュニティを創る‐」。野中が強調したのは、いまリーダーが身につけなければならないのは「実践知」だということ。実践知とは、「共通善(Common Good)の価値基準をもって、個別のその都度の文脈のただ中で、最善の判断ができる」知識を指す。その言葉の起源はアリストテレスが語った「フロネシス(Phronesis)」にあり、「賢慮」とも訳される。

野中は、実践知リーダーの具体例として本田宗一郎氏(本田技研工業の創始者)とスティーブ・ジョブズ氏(アップル・コンピュータ社の共同創始者)の2人を挙げ、「もはや企業経営は、共通善やコミュニティといった存在意義に繋がる価値観を抜きに語れない。企業は収益を上げるモデルを磨きながらも、より善い社会を志向する価値観を併せ持たねばならない」と説いた。そして、そのことを象徴する言葉として、本田氏の「哲学のない行動は凶器だ。行動のない哲学は無意味だ」やジョブズ氏の「人間愛と結びついたテクノロジー」を紹介した。

そのうえで、次代のグローバル社会が求めるのは、実践知を個に留めず、組織の知に膨らませて「イノベーション」を生み出していける「賢慮のリーダー」すなわち「ワイズリーダー(The Wise Leader)」であると強調。そして、「強い思いを核に、世界中から豊かな知を総動員し、共創していく」ワイズリーダーこそが、イノベーティブなグローバルコミュニティを創造すると結論付けた。

講演終了後には、質疑応答の時間が設けられた。

参加者の一人からは、「日本そして日本企業はどのようにグローバル化していくべきか」との質問が寄せられた。矢口氏は「東京大学でも国際化推進を意欲的に行っており、そのことが日本の国際化とグローバルなリーダーの育成につながるはず」と回答。野中は「リーダーの育成には修羅場経験を意図的に与える等思い切った挑戦をさせることが重要である。」と述べた後に「グローバリゼーションとは征服ではなく共生である。その実現のために不可欠なものが実践知であり、実践知を学ぶための場として、グローバル社会のプロトタイプになるハワイにJAIMSがある」と答えた。野中は続けて、「多様な国・地域から受講生が集まるJAIMSそのものが、集中した厳しい学びという『強烈な共体験』をすることで受講生たちが国境を越えた連帯感を醸成し、グローバルネットワークを創っていける場所である」と締めくくった。グローバル化への対応が急務の昨今、新しい知見を得て、参加者の表情が一様に生き生きと、知的な輝きに満ちた充実した2時間半だった。

設けられた。小林氏、野中所長もレセプションに参加し、リラックスした雰囲気の中、参加者と積極的に意見交換を行っていた。

矢口 祐人氏

  • 東京大学大学院
    総合文化研究科
    准教授

野中 郁次郎

  • JAIMS所長
  • 一橋大学名誉教授
  • カリフォルニア大学ゼロックス名誉ファカルティ・スカラー
  • クレアモント大学ドラッカー・スクール名誉スカラー

第3回レポート

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