第3回 Knowledge Cafe 開催レポート

ナレッジリーダーに贈る富士通JAIMS主催セミナー
Knowledge Cafe
「持続可能な社会的価値を創造する」

-東南アジアの医療・教育・予防の実践現場で見えることー

講師:赤尾 和美氏

  • 看護師
    NPO法人フレンズ・ウィズアウト・ア・ボーダー
    第45回 医療功労賞(海外部門)受賞

遠山 亮子氏

  • 中央大学大学院戦略経営研究科 教授
    富士通JAIMS理事
    国際マネジメントプログラム(GLIK)プログラムディレクター

第3回Knowledge Cafe 開催レポート
「持続可能な社会的価値を創造する」
~東南アジアの医療・教育・予防の実践現場でみえること~

富士通JAIMSでは、各界の第一線で活躍されている一流の専門家を招き、時代に求められるナレッジと知見を提供するセミナーを開催。向上心あふれるビジネスパーソンに好評を得ており、今回、第3回を迎えた。

2017年8月1日、富士通本社・ユーザコミュニティサロンで開催されたKnowledge Cafeで掲げたテーマは「持続可能な社会的価値を創造する」。セミナーに参加した方々の気づきも共有できる構成での開催となった。

アジアの小児医療の最前線から見える「引き継げるもの」とは?

いま企業は、事業活動を通じて国内外に山積する社会的な問題の解決に取り組むことが求められている。現場に身をおき現実を直視し、強い志を持って他者を巻き込みながら、課題解決に挑みつづけなければならない。

今回、Knowledge Cafeには、本年3月に「第45回 医療功労賞(海外部門)」を受賞されたNPO法人フレンズ・ウィズアウト・ア・ボーダーJAPAN代表の赤尾和美氏を特別講演の講師として招き、東南アジアでの医療・教育・予防の実践現場で培われた知見を共有する場を提供。それを受けて、中央大学ビジネススクール教授であり富士通JAIMS理事の遠山亮子が講評を行った。

赤尾氏の講演テーマは「引き継げるものをつくる〜カンボジア・ラオスの小児医療の最前線から見えること〜」。カンボジアとラオスでの経験を振り返り、今回のテーマである「引き継げるもの」というテーマに対して、①(現地に)根付くもの、②(現地の人々が)納得したもの、③(現地の人々が)心地いいと思うものという3つを挙げた。その実現に必要なものが、「異(医)文化理解と現状把握」であると語った。

持続可能な心のこもった質の高い医療を目指して

看護師でもある赤尾氏は、1999年、アンコール小児病院の設立当初、現地の看護師の人材育成のためにカンボジアに呼ばれた。その期間は2カ月だったが、その後、カンボジアからラオスへと約18年の間、現地の医療に関わることとなった。その理由は、日本とあまりにも違う医療環境や医療に対する知識不足、文化・風習による伝統医療に衝撃を受けたことにある。

たとえば、病院内で点滴のブドウ糖の周りに無数のアリがたかっていても、誰も気にするものがいない環境。カンボジアの伝統医療では、体の中から悪いものを出すという考えから、血が滲むほどコインで体をこする方法などが行われ、ラオスではシャーマンによる医療行為が行われている。これらは、医療ではないことは事実だが、「病気は治らない」と伝えても、現地の人には響かない。「親身に対応してくれて、まさに手を添える“手当”をしているのだから、癒し効果はある」と、現地の伝統医療をいったん受け止める。そして「一生懸命に祈ってもダメなときは、こういう方法もある」と協力的な姿勢で接する必要がある。

治療のための服薬指導も重要となる。時間で生活していないため、時計を持っていなかったり、時間(数字)が読めないケースがある。「毎食後」「食後30分」といった当たり前の説明が通じない。そこで、時計を渡し、時間の読み方を教えてから、服薬をはじめることになる。同様に、貧困や風習の影響から、母親の栄養が不足することで、母乳に十分な栄養が含まれていないケースも多い。そのため、栄養失調が原因で死亡する乳幼児も多い。病院に入院させて、体力を回復させても、家に戻って同じ生活へ戻れば、また同じことの繰り返しに。そこで、保存食(干物)の作り方を指導したり、収入確保の提案も行う。カンボジアやラオスでは村社会の力が強いことから、村長との交渉も行い協力を得る。このように、医療だけではなく、生きる術までも知ってもらうことをしないと、現地医療は実現できない。そのために、病院で待っているのではなく、こちらから出向く訪問看護が重要である。

このような状況のなかで「引き継げるもの」を作るには、異文化と現状を十分に理解したうえで、
1)外国人による一時的な支援ではなく、現地の人に対する人材育成
2)「やりたいこと」と「できること」を把握して、できることから行う
3)自己満足の支援は、現地に根付かないので行わない
4)日本や欧米の成功例をはじめ、他の地域の成功例をそのまま持ち込まない(コピペ禁止)
これらを実現するためには「五感(感覚)を研ぎ澄まし、常に新鮮な感覚で向き合うことが重要である。その中心にあるのが、「Compassionate care=心のこもった質の高いケア」であると赤尾氏は熱く語られた。

特別講演の動画はこちら

知識創造理論の観点から社会的価値のヒントを探る

赤尾氏の特別講演に続き、富士通JAIMS理事である遠山亮子の講評が行われた。価値は、文脈により異なり、また常に変化し続けるため、何が価値かを考え続ける必要がある。特別講演でも語られていたが、子どもの健康は古今東西においても価値がある。しかし、日本の場合は子どもの栄養過多が問題であり、ラオスやカンボジアでは栄養不足が問題になっている。だから、日本の価値をそのまま持っていく、コピペには価値がない。

新しい価値とは、人の喜びを通して社会的な善につながるという社会的な視点も必要となる。そして、誰にとっての価値なのか?価値は知識によってつくられるといわれるように富士通JAIMSの国際マネジメント教育プログラムは「ナレッジ=知識」を中心としたプログラムを提供している。知識から生まれる新しい価値の創造は、動きながら考え抜く実践知のリーダーから生まれる。「試すことをしなければ価値は生まれない。見たり聞いたりするだけの人が多いが、試してみる人が少ない。実は、この試すことができる人が価値を創造できるリーダーになれる」と本田宗一郎氏の言葉で締めくくられた。

講演・講評終了後は、参加者同士による「本日の気づき」という共有の時間が設けられ、積極的な意見交換が行われた。続いて行われた赤尾氏とのQ&Aセッションでは、熱い思いがこもった質疑が交わされる有意義な時間となった。

講評の動画はこちら

第4回レポート

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